fc2ブログ

つばめ翻訳のブログ

在宅フリーランスで翻訳業をしています。翻訳の仕事、勉強、イベント、読書と言葉について書いています。

『翻訳者育成コース』を受講して

前回の記事から続けて、今回はAIBS翻訳スクールの「翻訳者育成コース」が具体的にどのような講座だったかをお伝えしたいと思います。
 
●申し込みから契約までの流れ
事務局に細かな点も問い合わせて心を決め、コースのウェブサイトから申し込みをしました。折り返し、最少遂行人数に達して開講が決定したらご連絡をいただけるとお知らせをいただきました。
 
開講決定後、受講料の支払い方法と役務提供に係る契約書についての説明がありました。この契約書には、コースの基本情報のほかクーリングオフ制度や中途解約する場合の返金方法についてもくわしく書かれていたので、安心して受講料を納めることができました。
 
●課題について
私が受講した際は初回から課題があり、開講日の10日ほどまえに事務局から原文ファイルをいただきました。分量はA4 1ページ程度。提出期限は開講日の数日前でした。
 
提出した訳文は、講師の高橋先生がWordの変更履歴記録機能とコメントを使って添削してくださり、添削済みの全員の訳文と授業用の資料が当日朝までに専用サイトにアップされました。このように、授業に関する文書(課題原文、提出訳文、添削済みの訳文、授業用資料等)の受け渡しは、すべて専用のウェブサイト経由で行われました。
 
添削された訳文は理由ごとに異なる色で要改善箇所が示され、ブラッシュアップのためのヒントなどがコメントに書かれていました。高橋先生がこのように私たちの訳文に直接赤を入れず、原文理解や日本語に対する意識を深めるための問いを投げかけ、言葉についての思索をうながすやり方で添削をしてくださったおかげで、生徒はひとつひとつの指摘について自分なりの修正案や回答を考える訓練を重ねることができました。
授業では、添削の入った状態の訳文がたたき台になります。指名されたときに沈黙してしまうのを防ぐため、授業開始までに全員分の訳文と添削内容にできるだけ目を通し、先生のコメントに対する自分なりの回答をメモしておくようにしました。
 
初回は訳文の書き手は伏せられていましたが、受講人数が4名と少なく、だれが書いた文章であるかは文体や授業内のやりとりでおのずとわかってしまうので、2回目からは提出時に答案に記名することになりました。講座内だけのこととはいえ、名前つきで自分の訳文が画面上に大きく表示されるのはなかなか緊張するものでした。
 
●授業の流れ
授業はZoomで行われました。毎回、事務局の方が冒頭に同席してくださり、高橋先生も穏やかなあいさつを交わしてすっと授業に入ってくださったのでありがたかったです。
 
授業の構成は主に、①その日のテーマの説明(配布資料に沿って)、②課題文の解説(テーマと重なるポイントがどこにあるかの説明等)、③生徒の訳文の検討(誤訳、日本語表現に注意が必要な箇所等)、の3つで構成されていました。これらの進め方の順序は回によって変わることもあったように思います。
 
上記①~③のいずれでも先生からはどんどんご指名で質問が飛んできて、一時も気を抜く暇はありませんでした。時には他の方の訳文の課題点について意見を聞かれることもありました(ここの何が間違っているか、どうすればいいかを説明するなど)。先生に聞かれたときに自分なりの考えを言語化できるか、問われた内容をこれまできちんと意識していたかが突きつけられる、刺激的な2時間でした。
 
授業用の資料は、毎回かなりのボリュームがありました。というのも、授業各回のテーマが「翻訳を勉強する」「英文をしっかり読む」などとても大きなくくりになっていて、まるで翻訳フォーラムのシンポジウムで話されるような内容だったからです。テーマに関する推薦図書も先生がたっぷり用意してくださっていたので、資料は何ページもありました。資料の印刷は生徒に任されていましたが、私は授業のスピードについていきながらメモを取れるよう毎回印刷して、そこに先生のお話のポイントや自分が意識していなかった点などを書き込んでいました。
 
高橋先生は、「翻訳とは何か」「翻訳者に求められる姿勢」といった大きなくくりから、原文の単語ひとつ・訳文の助詞ひとつに至るまで、鳥の目と虫の目の両方を駆使するようにして縦横無尽に翻訳についてご指導くださいました。翻訳フォーラムのシンポジウムと個人添削が組み合わさったこのような講座は、ほかにはなかなかないと思います。
 
●受講したその後
この講座を受けたから急に「翻訳ができるようになった!」とは思いませんでした。むしろ、自分に足りないところ、これから改善が必要なところが明確になり、「自分はまだまだだな」と感じました。先生のご指摘や他の方の訳文や発言を見聞きして、自分の至らなさに赤面したことも一度や二度ではありませんでした。一方で、受講期間中に授業以外で高橋先生からフィードバックをいただく機会が複数回あり、いまの自分が箸にも棒にもかからない状態ではなく、今後の研鑽次第で翻訳者としてもっと仕事をしていける可能性があることもわかり、大きな心の支えとなりました。
 
本講座を受講して、「プロとは素人が意識していないものを意識する人なのではないか」と思うようになりました。例えば音楽家、建築家、経理、事務、デザイナーなど、どんな職業・分野でも「プロは意識している」のではないかと。翻訳者であれば、「この単語をどう訳すか」という翻訳スキルを知っているかはまず前提として、ソース言語とターゲット言語の冠詞ひとつ・助詞ひとつ・句読点ひとつを意識すること。そういった隅々まで意識して、「ここは本当にこう訳していいのか」を何百万回も検証し、その度に辞書をひき、コロケーションを確認し、事実関係の裏取りをし、読み手に間違いなく書き手の書いた情報が届くかを考える人。それが翻訳者なのだと思いました。
 
翻訳とは何か、翻訳者とは何かが自分のなかに浮かび上がり、実際の訳し方も同時に学べる講座です。本当に実のある翻訳の勉強がしたい方におすすめいたします。
 
翻訳者育成コース」は今春も開講予定とのことで、明日(4月4日)まで申し込み受付中だそうです。検討中の方に届きますように。
 
(*高橋先生が副会長を務めていらっしゃる日本翻訳連盟[JTF]をはじめ、通訳翻訳関連の4団体が詐欺まがい翻訳講座について注意喚起の声明を発表しています→こちら
 
翻訳は、語学力不問でAIを使ってできる仕事ではありません。翻訳を学ぶ機会を探すためには、本当の翻訳力につながる講座かどうかを見極めることが大切だと感じています。)
お読みいただきありがとうございました。
読んだよ代わりにポチッといただけるとうれしいです。
にほんブログ村

スポンサーサイト



PageTop

『翻訳者育成コース』を申し込むまでのこと

前回の記事で、クラウン会員を取得できた要因のひとつは「翻訳学校を受講したことではないかと思う」と書きました。今回は、それがどんな講座だったか、どうしてその講座を選んだかを書きたいと思います。
 
●受講した講座
AIBS翻訳スクールの「翻訳者育成コース」を受講しました。講師は帽子屋さんこと高橋聡先生です。期間は2023年4月から10月までの半年間でした。
 
●講座申し込み当時の状況
翻訳会社に登録して仕事はしていたものの、日英翻訳のチェック業務(英訳において原文の解釈違いなどがないか、日本語ネイティブとして確認する仕事)を担当することが多く、ずっと学んできた英日翻訳に携わる割合を増やしたいと思っていました。
 
また、当時は仕事と並行して、越前敏弥先生の文芸翻訳講座をオンラインで受講していました。それ以前はほぼずっと通信講座で翻訳を勉強していたので、オンラインとはいえ先生とほかの生徒さんのお顔が見える状態で、自分の訳文がいつ俎上に載せられるかわからない緊張感を味わうのは、とても刺激になりました。課題を提出したときに迷った点について、先生が解説してくださる言葉をノートに書きながら理解を深めていくのも、「学んでいる」という実感がありました。
 
越前先生が「こういう緊張感を体験することで訳文の質も上がる」というふうにおっしゃっていたこともあって、「通信講座で翻訳を勉強することも可能だけれども、先生と対面しながら言葉について考えたり自分の意見を説明したりする緊張感が、自分の訳文を向上させるために必要な時期に来ているのではないか」と感じるようになっていました。
 
何よりも、実務関連の講座は受講経験が一度しかなかったので、実務翻訳の基礎をしっかり勉強し直したいと思っていました。
 
●講座を知ったきっかけ
そのような思いを抱えていた2022年秋に、JTF翻訳祭を視聴しました。そのプログラムのひとつ『翻訳業界における様々なキャリア』で、株式会社アビリティ・インタービジネス・ソリューションズの社員である塩﨑さんがお話されているのを聞いたことが、AIBS翻訳スクールを知るきっかけになりました。塩﨑さんの翻訳業務、キャリア、業界等に対するお考えとお話ぶりが印象に残り、「塩﨑さんがお仕事をされているのはどんな翻訳会社なんだろう」と思って同社を検索しました。そのとき、同社が翻訳スクールを運営していて、そのうえ以前から存じ上げていた高橋先生が講師を担当されていると知りました。翻訳力の土台となるような内容を高橋先生に直接ご指導いただける貴重な場があると知り、思いがけないめぐり合わせにわくわくしたことを覚えています。
 
●この講座にした決め手
コロナ禍以降、オンラインで授業を行う翻訳学校が増え、都心で開講している授業を地方にいながら受けられる機会も多くなりました。数多くある講座のなかからAIBS翻訳スクールの『翻訳者育成コース』を選んだ際は、下記の4点が決め手になりました。
 
①分野を問わない総合的な翻訳力の向上に重点を置いている
ビジネス一般で登録し、専門だといえる分野をまだ持っていない自分には、専門分野の土台となる「総合的な翻訳力」を重視しているこのコースがぴったりだと思いました。
 
②講師が高橋先生である
講師の高橋先生のお話は翻訳フォーラムのシンポジウムや辞書に関するウェビナーなどで何度もうかがったことがあり、発信されている情報も普段から拝見していたので、「高橋先生なら自分に必要な指導をいただけるはず」と感じていました。しず翻(静岡翻訳勉強会)にお越しいただくなど、直接お目にかかる機会もあったので、緊張感はありつつも生徒が萎縮せずに出席できる雰囲気の授業になることだろうという安心感もありました(これまでにオンライン講座でお世話になった越前先生、そして加藤洋子先生も、同じように穏やかな空気で授業を進めてくださり、ありがたかったです)。
 
③授業の時間帯と回数、課題分量といった条件が自分に合っていた
2週間に一度の授業が全12回、隔週木曜日の19:00~21:00というスケジュールでした。19時開始なら、夫が定時で帰ってきてくれれば、子どものお風呂と寝かしつけを頼んで授業に集中できました。半年間は短くはありませんが、全12回であれば夫が忙しい時期があっても調整を頼める範囲だと考えました。
 
毎回の課題分量の目安は申し込み前に事務局に問い合わせをして確認し、子どもの体調不良や仕事との両立を考えてもなんとか最後まで完走できそうだと思いました。
 
④カリキュラムと受講料のバランスに納得できた
カリキュラムは、
・高橋先生による英日翻訳の授業が9回と日英翻訳の授業が1回
・運営会社の社員で英語ネイティブの方による日英翻訳の授業が1回
・塩﨑さんによる翻訳コーディネーター視点から見た業界や今後の勉強の進め方についてのお話が1回
という構成で、充実した内容になっていました。
そして、やむを得ない理由で授業を欠席する場合は、講義日から1週間以内であれば録画を視聴できる制度もありがたかったです。
 
さらに、翻訳課題の答案は毎回高橋先生が添削してくださるとのことでしたので、とても良心的な価格設定だと思いました。
 
実務翻訳の基礎が学べる(専門分野が指定されていない)他校の講座と「翻訳者育成コース」の条件を一覧表にし、特色などを比較して、最終的に上記の4つが決め手になって申し込むことにしました。
 
良心的とはいえ私にとってはまとまった金額だったので、いざ申し込んで振り込むときには少し勇気が要りました。それでも、「高橋先生のお話を隔週で12回も聞くことができる。年に一度聞くだけでも知恵熱が出そうになる、あの翻訳フォーラムでうかがうようなお話を!」という期待があったからこそ、申し込みに踏み切ることができました。
 
翻訳者育成コース」は今春も開講予定とのことで、現在申し込み受付中だそうです。
 
(*高橋先生が副会長を務めていらっしゃる日本翻訳連盟[JTF]をはじめ、通訳翻訳関連の4団体が詐欺まがい翻訳講座について注意喚起の声明を発表しています→こちら
 
翻訳は、語学力不問でAIを使ってできる仕事ではありません。翻訳を学ぶ機会を探すためには、本当の翻訳力につながる講座かどうかを見極めることが大切だと感じています。)
お読みいただきありがとうございました。
読んだよ代わりにポチッといただけるとうれしいです。
にほんブログ村 英語ブログ 英語 通訳・翻訳へ
にほんブログ村

PageTop

クラウン会員になりました。

この度、翻訳者ネットワークのアメリアにて、ノンフィクションのクラウン会員資格を取得しました。

クラウン会員は、「実際の仕事で通用するレベル」とみなされるアメリア独自の会員資格で、同会の情報誌にて毎月開催されている定例トライアル(翻訳の模擬試験)でAAを1回、もしくは同一分野で12か月以内にAを2回収める等の条件を満たすと取得できます。2010年に入会してから13年あまり、クラウン会員の取得をずっと目指してきました。今回、ノンフィクションの課題で1年以内にAの成績を2回収めることができ、クラウン会員に認定していただきました。

昨年は「基礎固めの1年にしよう」と年頭に決め、オンラインで翻訳学校の授業を受けたほか、さまざまな媒体の翻訳課題にできるだけ挑戦してきました。その取り組みのひとつとして、定例トライアルではノンフィクション、フィクション、実務の課題に応募し、その結果、この年明けにうれしいお知らせをいただくことができました(クラウンを取得すると、アメリア事務局よりメールでご連絡があります)。「やろう」と決めた1年を過ごしたあとにこのような結果をいただけたことは本当にうれしく、メール冒頭の「おめでとうございます!」という文字を見たときには思わず声を上げてしまいました。

10年以上なかなか達成できなかったクラウン会員取得をこの1年で実現できたのは、
①翻訳学校で半年間ご指導を受け、原文読解、情報収集、表現の突き詰め方などをあらためて学んだこと
②同じ先生(出題者)の過去問を見直して、どのような訳文が求められるかを自分なりに考えたうえで応募したこと
③限定詞と、名詞の可算・不可算、単・複数形に注意して原文を読むよう心がけたこと
この3つが理由ではないかと思います。

以前は「こなれた訳文を書きたい」「きれいな読みごたえのある日本語を書きたい」ということに主に意識が向いていましたが、もっと基本的な上記3点を意識するようになったことで、自分の訳文が少し変わったように感じています(翻訳学校については、またあらためて記事にまとめたいと思っています)。

翻訳修行において学ぶべき点はまだまだありますが、基礎固めの1年を経て、今年は新規開拓などにもチャレンジしていこうと考えています。今回せっかくノンフィクションのクラウン資格をいただいたので、出版翻訳への道もまた模索していきたいです。クラウン会員資格は決してゴールではありませんが(むしろスタート)、小さな緑色の王冠マークがこれまでの積み重ねの証しとして心を照らしてくれそうです。これを支えとし、喜んでいただける訳文をお届けできるよう、今後もスキル向上に励んでまいります。

読んでくださってありがとうございました。
読んだよ代わりにポチッといただけるとうれしいです。
にほんブログ村 英語ブログ 英語 通訳・翻訳へ
にほんブログ村

PageTop

最近読んだ本:『点子ちゃんとアントン』


『ふたりのロッテ』を子どものころに読んだことがあり、エーリヒ・ケストナーの名前にはなじみがあったため、『点子ちゃんとアントン』もすでに読んだような気がしていましたが、実際に開いてみると初めて読む物語でした。

怖いもの知らずで、ちょっぴりおせっかいで、おしばいが大好きな点子ちゃん(トットちゃんみたいな女の子だなと思いました)。観察眼があって、器用で、責任感の強いアントン。二人に共通しているのは、大きくはばたく想像力と、間違っているものは間違っていると誰に対してもはっきり伝える勇気があるところ。でも、典型的な優等生というわけではなく、作者のケストナーはこの二人に苦言を呈してもいます。ケストナーにピリリとした一言を言われているのはほかの登場人物たちも同じですが、アントンのお母さんだけはそれを免れています。訳者の池田香代子さんは、ケストナーが自分の母を投影していたために、アントンのお母さんには厳しいことを書けなかったのではないかという意味のことを、あとがきに書かれていました。

ケストナーは各章の末尾で、登場人物たちに対する客観的な評価や、物語と実社会を橋渡しするようなコメントを「立ち止まって考えたこと」として記しています。この部分は物語の本筋とは別であって、苦痛に感じるようなら飛ばしてかまわないのだと子どもたちにはっきりわかるように、フォントを小さくして印字するよう印刷会社の人に頼んだとまえがきに書いてありました。

全16か所あるこの「立ち止まって考えたこと」の内容が、大人になってから読むと実に胸に刺さりました。自分のことを言われているようで恥ずかしくなったり反省したり、今の日本にも言えるような気がして思いをはせたり。途中、大人になった自分が「さて、今のきみはどうなんだ?」と問われているような気持ちになり、読み続けるのが少し苦しくなりました。でも、おちゃめな点子ちゃんと頼もしいアントンに手を引かれるようにして、最後まで読み通すことができました。

そして、たどりついた最後の「立ち止まって考えたこと」には、自分が子どものころに思っていたこと、そして今、ククを育てながら感じていること、いつかはククにこんなふうに伝えたいと思っていることがつづられていました。その「立ち止まって考えたこと その16 ――ハッピーエンドについて――」より、一部を引用します。

 ところで、みんなはこのことから、じっさいの人生でも、この本とおなじように、ものごとはいつも、こうあるべきだというふうに運び、こうあるべきだというふうに終わると思ったかもしれないね! そうでなければならないし、わきまえのある人びとは、そうなるように努力はしている。でも、いまはそうはなってない。まだ、そうはなってないのだ。
 むかし、クラスメイトがいて、そいつはいつも、となりの子をカンニングしていた。そいつが罰をくらったと思った? ちがうんだ、そいつがカンニングした、となりの席の子が罰をくらったんだ。だからみんなは、ほかの人のせいで罰をくらっても、そんなに驚いていてはいけないよ。それよりも、みんなが大きくなったとき、世界がましになっているように、がんばってほしい。ぼくたちは、充分にはうまいこといかなかった。みんなは、ぼくたちおとなのほとんどよりも、きちんとした人になってほしい。正直な人になってほしい。わけへだてのない人になってほしい。かしこい人になってほしい。
 この地上は、かつては天国だったこともあるそうだ。なんでも、できないことはないんだ。
 この地上は、もう一度、天国になれるはずだ。できないことなんて、ないんだ。
『点子ちゃんとアントン』191-192ページより

私も子どものころは、まっとうに生きていれば「ものごとはいつも、こうあるべきだというふうに運」ぶものだと思っていました。でも実際に生きているとそうでないときもあるのだと、この年になると知っています。

「みんなが大きくなったとき、世界がましになっているように、がんばってほしい。ぼくたちは、充分にはうまいこといかなかった。」というケストナーの言葉には、自責と謝罪が込められているように感じます。続く子どもたちに向けた激励の響きは切実です。

この作品が書かれた当時、ドイツではナチスが台頭し始めていたことを考えると、ケストナーの感じていた切迫感と私が抱えている漠然とした不安を比べるのも不遜かもしれませんが、自分も同じようなことを感じる瞬間があるなと思うのです。

ククがいなかったころは、景気や政治をはじめとする世の中の仕組みについて友達と嘆き、ブツブツ文句を言ってはそれで終わっていました。でも、子どもができると、嘆いて終わってしまうのはちょっと違うのではと思うようになりました。ちっぽけな自分ひとりで何かを大きく変えることは難しいけれど、この先にある世の中をちょっとでもましにしてから子どもに手渡したい。もう遅いかもしれないけれど。

でも、たぶん、ケストナーが願っていたのはそんな大風呂敷ではないのだろうとも思います。点子ちゃんの両親であるポッゲ夫妻や、アントンの先生に対する苦言にそれを感じます。「世の中ではなく、まずは家の中だよ。目の前の子どもと、自分のそばにいる人たちをよく見て」。小さめのフォントで書かれた「立ち止まって考えたこと」と飛ばさずに読むと、ケストナーがそんなふうに言っているように思いました。

読んでくださってありがとうございました。
読んだよ代わりにポチッといただけるとうれしいです。
にほんブログ村 英語ブログ 英語 通訳・翻訳へ
にほんブログ村

PageTop

ジャパンナレッジに入会しました。

大変たいへん遅ればせながら、JTFの会員特典を使ってジャパンナレッジに入会しました。

翻訳していると、そのままカタカナにしてよいか迷う名詞が出てくるときがあります。カタカナで意味が正しく伝わるか、言い換えればそのカタカナ語が日本社会に定着しているかを確認するひとつの方法として、ジャパンナレッジを全文検索するといいと聞いたことが、このタイミングで申し込む直接のきっかけとなりました。

今までは、手元の辞書に加え、コトバンク、国立国語研究所のコーパス少納言、Googleブックスでの書籍検索、ニュース検索などでカタカナ語の浸透具合を確認していました。が、収録されている出典の刊行年が少し古くてヒットがなかったり、逆に近年出た書籍やニュースばかりがヒットするときもあったりで、信頼できる判断材料がもうひとつ手元にほしいと思っていました。ジャパンナレッジでは出版社から出ている辞書や書籍を一括検索でき、ネット環境があればどこからでもアクセスできるので、自分の翻訳環境がより安定したなと感じています。

ジャパンナレッジの個人向けプランは、基本のJKパーソナルと全コンテンツが使えるJKパーソナル+Rの2つあります。少し迷いましたが、コーパスとしても使っているのに第5版しか所有していなかった『ビジネス技術実用英語大辞典(うんのさんの辞書)』の第6版が含まれているのが決め手になって、+Rを選びました。

また、小学館の『使い方の分かる 類語例解辞典』が入っているのも個人的にはうれしい点でした。この類語辞典は、似ている訳語の微妙な差異を確認するときにとても頼りになり、毎日使っているのですが、CD-ROMなどでは販売されておらず、データ版はジャパンナレッジと古い電子辞書でしか入手できないのです。生産終了したPASORAMAでいまだにひいている身としては、PASORAMAが万が一だめになったときの安全策を手に入れたという点でも、ジャパンナレッジに申し込んだ意味は大きいなと思っています。

読んでくださってありがとうございました。
読んだよ代わりにポチッといただけるとうれしいです。
にほんブログ村 英語ブログ 英語 通訳・翻訳へ
にほんブログ村

PageTop