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つばめ翻訳のブログ

在宅フリーランスで翻訳業をしています。翻訳の仕事、勉強、イベント、読書と言葉について書いています。

ジャパンナレッジに入会しました。

大変たいへん遅ればせながら、JTFの会員特典を使ってジャパンナレッジに入会しました。

翻訳していると、そのままカタカナにしてよいか迷う名詞が出てくるときがあります。カタカナで意味が正しく伝わるか、言い換えればそのカタカナ語が日本社会に定着しているかを確認するひとつの方法として、ジャパンナレッジを全文検索するといいと聞いたことが、このタイミングで申し込む直接のきっかけとなりました。

今までは、手元の辞書に加え、コトバンク、国立国語研究所のコーパス少納言、Googleブックスでの書籍検索、ニュース検索などでカタカナ語の浸透具合を確認していました。が、収録されている出典の刊行年が少し古くてヒットがなかったり、逆に近年出た書籍やニュースばかりがヒットするときもあったりで、信頼できる判断材料がもうひとつ手元にほしいと思っていました。ジャパンナレッジでは出版社から出ている辞書や書籍を一括検索でき、ネット環境があればどこからでもアクセスできるので、自分の翻訳環境がより安定したなと感じています。

ジャパンナレッジの個人向けプランは、基本のJKパーソナルと全コンテンツが使えるJKパーソナル+Rの2つあります。少し迷いましたが、コーパスとしても使っているのに第5版しか所有していなかった『ビジネス技術実用英語大辞典(うんのさんの辞書)』の第6版が含まれているのが決め手になって、+Rを選びました。

また、小学館の『使い方の分かる 類語例解辞典』が入っているのも個人的にはうれしい点でした。この類語辞典は、似ている訳語の微妙な差異を確認するときにとても頼りになり、毎日使っているのですが、CD-ROMなどでは販売されておらず、データ版はジャパンナレッジと古い電子辞書でしか入手できないのです。生産終了したPASORAMAでいまだにひいている身としては、PASORAMAが万が一だめになったときの安全策を手に入れたという点でも、ジャパンナレッジに申し込んだ意味は大きいなと思っています。

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受注から納品まで

お仕事の打診をいただいたとき、主に次のような流れで承っています(お取引先によって少し異なる場合もあります)。
 
①メールで打診を受ける
新しい案件については、いつもメールでご連絡をいただきます。
 
どんな場合でも必ず書かれているのは、分量と納期。以前からお取引があると、レートは省略されていることが多いです。
 
もう少し詳しく書いてくださっている場合は、
・原稿の大まかな内容
・クライアントの特徴
・訳出時に参考とするサイト
・注意事項
などもわかります。
 
打診時の情報共有については担当者さんによって少々差があり、翻訳が必要になった背景まで最初から書かれていたときは、訳者側のことを配慮してくださっていることが伝わってきて、とてもありがたかったです。
 
翻訳案件のときは、たいてい打診時に原稿ファイルが添付されているので、自分が引き受けられるかをはっきり判断しやすいです。対してチェック案件のときは、まだ別の方が訳している段階で(もしくは訳し始める前に同時に)打診をいただくことが多いため、訳文ファイルはまだなく、原文ファイルだけで判断をするのが(私の場合は)普通です。
 
②詳細を確認する
①で分量と納期しか書かれていなかったような場合は、その情報だけでは納期内に自分が担当できるか判断がつかないので、下記の詳細について確認します。
 
・翻訳する文書の詳細(使う目的、読み手など)
・大まかな分野
・翻訳不要箇所があるか
・用語を統一する資料はあるか
・レート(※土日加算、特急加算の確認も含む)
その他、チェック案件を受けるときの確認事項の詳細は前回の記事に書きましたので、よろしければそちらもご覧ください。
 
③スケジュールの確認と条件の交渉
分量を自分の1日当たりの処理量で割り、カレンダーも確認しながら、納期までに対応できるかを確認します。まだ子どもが小さいこともあり、不測の事態に備えて、スケジュールには少し余裕を持たせてお引き受けするようにしています。
 
このときの判断材料にするために、日ごろから工数をExcelでメモして、1日当たりの処理量がすぐにわかるようにしています。この資料があると、案件や分野ごとにも自分のだいたいのスピードがわかります。
 
納期やレートの条件等で変更が必要だと思うところがあれば、これならできますという条件を提示して交渉することもあります(交渉はあまり得意ではないのですが、「~はできない」と否定形で伝えるより、「~ならできる」とできる方法を探して伝えることを心がけています)。
 
④対応できると返信する
①~③までを検討して、できると思えたらお引き受けできる旨返信します。背伸びをして引き受けて無残な結果になると後に響くので、受けられるか決断するときは慎重にいきます。ただ、スピードを上げるためにも、もう少し自分に負荷をかけるような水準にしていくほうがいいかもと最近は考えています。
 
対応可の連絡後、正式に受注することになったら、カレンダーにその案件を記入します。
 
⑤訳出、チェック
ファイルが届いたら、受信の連絡をして仕事を始めます。特に分量が大きな案件のときは、枚数かワード数で1時間当たり/1日当たりのノルマを決めて、それを達成するように進めていきます。
 
仕事中は、翻訳のときは野鳥のさえずりなど音が静かな動画、チェックのときは気分とスピードを上げるためににぎやかな音楽をかけていることが多いです。
 
静かな動画のなかで最近のおすすめはこちら↓
「猫用」と銘打たれていて、餌台にやってくる野鳥たちの姿が延々流れている動画です。BGMもなく、ひたすら鳥の声がひそかに聞こえてきます。じっと画面を見つめているわけにはいきませんが、調べものの合間にタブを変えてちらりと眺めては癒やされています。
 
チェックのときは人の声(歌詞)が入っている曲でもあまり影響はないのですが、翻訳のときは頭に浮かんできた表現がかき消されてしまうので、歌詞が入っていない音源をかけています。
 
⑥納品
メール添付にて納品します。納品後、ファイル受領のご連絡をいただくとほっとします(ごくたまに受領連絡がないときもありますが)。
 
こんな感じです。
 
①~③の確認事項は、SNSなどで翻訳者の先輩方の投稿を拝見しながら、少しずつ自分なりに項目を増やしてきました。むちゃな条件や危険な案件を引き受けることにならないよう自衛するための策ですが、それでもなかなかうまくいかず、届いたファイルを開いてから「えっ」となることも時にはあります。
 
そういった状況にならないよう、案件はすべて実際のファイルを見てから引き受けるかを判断する先輩方も多いようです。私も、そういう方向に少しずつ条件を整えていきたいと考えているところです。
(2022/12 加筆修正)
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「参考資料との統一」について考えてみました。

翻訳案件の「参考資料と統一する」って、どういうことなのでしょうか。この言葉を口にしたり言われたりするときに頭に思い浮かぶ内容は、どうも人によって違うのではないでしょうか。翻訳者/チェッカー間で統一に対する考え方に差があるだけでなく、1つの翻訳案件にかかわる人たちの間でも差があるのではないかと、最近感じるようになりました。

〇参考資料に対する私の考え
エンドクライアント(翻訳発注企業)から参考資料が支給される場合、「訳出段階で参考資料に表現・表記を統一し、チェック段階で統一できているかを再度確認する」のが原則だと考えています。学習者だったころから、SNSなどで翻訳業界の先輩方が発信される情報や業界誌で「参考資料があれば統一するのが大前提」とされているのを見聞きしてきました。初めて翻訳会社からチェック案件をいただいたときも、チェックの方針として参考資料と統一するよう指示があったと記憶しています。何より、情報の正確さを保ち、読み手に伝わりやすい内容にするためには、何かしら基準(参考資料)があるのであればそれに統一することが大切だと考えます。

しかし実際は、人によって「参考資料」や「統一」に対する考え方が違い、かつその考え方の違いが共有されないことが多いのではないかと想像しています。

〇関係者の頭のなかを想像してみる
・エンドクライアント:「こちらは参考資料です」(翻訳の「参考」にしてもらえるかな。表現はそろえなくてもかまわないよ)

・翻訳会社:「翻訳者に渡します!」(参考資料なんだから、これにきっちりそろえるということだな)(参考資料があれば訳出時に統一するのは当然。でも翻訳者は言わなくてもわかっているはず)

・翻訳者:「参考にします」(いつも通り、「参考」にしよう)

・チェッカー:「参考資料との統一、承りました」(参考資料があるということは、エンドクライアントも翻訳会社も統一をご希望なのだ。翻訳者もそれを知っているはず)→訳稿が届いたので見るとほとんど統一されておらず、必要工数が増えて青くなる

これは、翻訳者とチェッカーの立場しか経験したことがない私の想像でしかありません。もちろん、このような方々ばかりでないことは重々承知しています。ただ、「こんなふうになっているのでは?」と、下記の点を確認している最中のやりとりで感じることが多いです。

〇チェック案件打診時に確認していること
①参考資料はあるか(今はなくてもチェック開始までに発生する可能性があるならそれも含めて)

②参考資料に「何を」「どのくらい」そろえるか(固有名詞? 同一文言? トーンの参考にする? 参考資料のほうが今回の訳文より精度が低い場合もそろえる? 統一不要のただの「ご参考まで」なのか?等)

③参考資料が複数ある場合は、優先順位

④訳出者はひとりか

⑤①~③について、翻訳者にも必ず伝えてもらう。万が一、資料との不統一が多いと訳稿が届いてからわかった場合は、レートの上乗せ、納期の延長、翻訳者への修正依頼も含めて対応方法について相談することにあらかじめ了解を得る。
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①は、打診時には参考資料があるという話はなかったのに、チェック開始時になって参考資料もやってきたことが以前あってから、「開始までに発生する?」という点も訊くようにしています。こちらがこう問いかけてから、「クライアントに確認します」という話になることもあります。

②私の場合、「参考資料と統一してください」と言われると、「資料と同じ用語・文言が翻訳原稿に出てきたら、資料とそろえるのが原則なんだ」と思います。でも、チェックの仕事をするときに届いた訳稿が統一されていなくて、「同一文言は資料とそろえるんですよね?」と再度確認したら「必ずしもそろえなくていいです(ご参考まで)」という返事だったこともあれば、「統一しなくてもいいけど、コメントにそろっていない旨書いておいてください」と言われ、そのように対応して納品した後、「参考資料にきっちり統一し直してください」と別の担当者の方から連絡があってやり直したこともあります(再作業の対価は何かしらいただきました)。このときは、翻訳会社の方々のあいだで認識違いがあったのだろうと思いました。

③複数の参考資料がある場合、資料間で表記がそろっていないことも。その場合は、資料ごとの表現の確認や、より適切な表現の判断などにも工数が必要になります。そのため、複数資料があるときはあらかじめ資料の優先順位を確認し、基準となる資料を決めておきます。これも、こちらが問い合わせて「クライアントに確認します」という話になることが多いです。(ついでに、優先度が低いとされた資料の表現のほうが優れていて頭を抱えることもなくはありません……)。

④分量が大きめで訳稿が分納される場合、同じ方がすべて翻訳しているかと思いきや、ファイルによって品質や表記が違って困ったことがあります(あるいは、後の方で力尽きて別人かと思うような品質になってしまったのかもしれません)。以来、一度に訳稿が届かないときやファイルが複数にまたがるときは、同じ人がすべて訳されるかを確認するようにしています。

⑤「参考資料との統一の必要性」、あるいは「統一度合いに関するクライアントのご希望」は、翻訳者に伝えられているものと思っていましたが、必ずしもそうではないようです。そう感じるくらい、参考資料を参照していない訳稿は多いです。そのため、うるさいと思われるかなと思いつつ、「翻訳者にも伝えてください」とお願いしています。

①~⑤まで確認してやっと、エンドクライアントからチェッカーまでの「参考資料に対する考え方」が統一されるのではないかと思います。

ここまでお読みになって感じられた方も多いかもしれませんが、困った状況になるときの主な原因は確認不足だと思います。上記で想像した「関係者の頭のなか」がもし事実なら、それを頭のなかに収めておかずに念のため口に出して(あるいはメールで文字にして)伝える。はっきりしなければ、訊く。私自身、何度も顔を青くし、失敗もしながら、打診時に確認する内容をだんだん増やし、作業開始後も含めて翻訳会社の方とのコミュニケーションを増やすよう心がけているところです。翻訳はそもそもコミュニケーションのために存在するのだから、翻訳案件自体の進め方でコミュニケーションが不足しているという状況があるのなら、その一関係者として何とかしていきたいなと思っています。

ただ、この「参考資料に表記・表現を統一する」という作業は、けっこう手間がかかります。ツールやアドインでいろいろとやりようもあるかと思いますが、参考資料がWordなどの場合は、次のような手順になることが多いのではないでしょうか。
・参考資料のどこにどういった情報があるかを把握する
・原稿に資料と同じ部分(文言)があるかを確認しつつ訳していく
・参考資料で指定のある用語と齟齬がないように表現を工夫する(どうしても齟齬が出るなら、その旨と代案をコメントに入れる)
これらが必要になると、資料なしで自ら調査しながら訳すよりも統一のための工数がだいぶ増える場合が多いです。

このことを踏まえ、なおかつ昨今翻訳の納期がより短くなっていることも考えると、「参考資料に統一されていない!」と翻訳者だけに矛先を向けても「統一されていない問題」は解決しないと思っています。参考資料にきっちりそろえることが必要ならそれだけの対価と工数が必要ですし、翻訳者とチェッカーの効率化に役立つ資料がどんなものかも検討していただきたいところです。例えば、エンドクライアントの過去の既訳文書から抽出した、あるいは社内用語をまとめた固有名詞の用語集があれば、膨大なネットの海を検索する労力が省け、翻訳スピードの向上にも即つながると思います(私は残念ながらそのような用語集とはあまり出会ったことがなく、たいていWordやPPTの文書、またはURLが参考資料として届くことが多いです)。

一方で、参考資料との統一が条件なのに納期が厳しくて訳出時に統一まで手が回らないということがもしあれば、翻訳者には統一込みで対応できる納期を翻訳会社に交渉していただきたいです。万が一、統一が前提なのにできないことを承知のうえで受注し、統一作業を意図的にチェック段階に回しているのなら、それは翻訳単価だけの仕事をしていないことになりますし、その分、自分の翻訳単価を下げてチェッカーの単価を上げてもいいくらいだということに思いを致すべきでは? と思ったりもします。

参考資料や資料との統一に対する考え方について翻訳会社の方とやりとりをし、方針を共有する努力をすること。相手の話に耳を傾け、自分の考えや改善案も必要なときに丁寧に説明すること。そして、どうしても状況が変わらなければ、自分が納得できる条件で仕事ができる新たな取引先を探し、トライアルに挑戦すること。すべて必要で大切なことだと思いますし、私自身も少しずつそれらに向けて試みを重ねているところです。

……チェッカーは、人の訳文に修正を入れるという立場上、口うるさいと思われることもあると思いますし、翻訳者よりも経験の浅い人物がチェックをしたことで品質が台無しになったなどという話も聞きますので、チェックを多く担当している身でこの件についてブログを書くかどうか、しばらく前から迷っていました。今回、スペイン語翻訳者の宇野和美さんのブログ最新記事『説明をお願いします』に背中を押していただきました。宇野さんがブログで書いていらした事柄と本記事での統一の話はまた状況が異なるのですが、手順や基準がバラバラで困惑すること、個々人で違う考え方/やり方が説明されないことで戸惑うことが、宇野さんのような経験豊富な翻訳者の方でもおありなのだと知りました。私はまだ発展途上のしがない翻訳者/チェッカーではありますが、参考資料との統一に関する一個人の体験とそれに対する考えを、一度まとめてみようと思いました。

だいぶ長くなってしまいました。お読みくださってありがとうございました。至らない点が多々ありますので、お気づきの点がありましたら、ぜひご意見をお寄せください。

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定訳の裏取りのこと(チェック担当のつぶやき)

あちこちのでっぱりをちょちょいとつついて積み木のタワーをまっすぐにするような、すい~っとかんなをかけて指先でしかわからないざらつきをなめらかにするような、そんな感覚になる翻訳チェックの仕事がけっこう好きです。「ほぼリライト」というような大変な案件にはこれまで当たってしまったことがないので、こう言えるのかもしれません。

私が発注していただくのは英語ネイティブの方が訳した日英翻訳のチェックが多いので、原文の意味の取り違えがないかを日本語ネイティブとして確認することを中心に、誤字・脱字・訳抜け・固有名詞等の裏取りなどを行います。翻訳者の方が仕上げてくださったものを第三者の目で見て、品質を高め、保証する仕事。チェック業務は英語で「quality assurance (QA) check」と呼ばれることがありますが、まさにそのような認識で担当しています。

これまで翻訳講座やアメリアの定例トライアルの解説・添削を受け、翻訳フォーラムなど業界関連のイベントで先輩方のお話をうかがってきた中で、組織名や人名などの固有名詞、該当分野での定訳は翻訳段階で確認し、翻訳者が責任をもって訳文に反映させるものだと思っていました。どうしても定訳の裏取りに至らなければ、それはコメントなりで申し送りをし、次の段階を担当する人に確認を依頼するものだと。既存の定訳と統一することが書き手の意図した情報を読み手に正確に伝える一助になりますし、逆にターゲット言語の名前を自分で編み出せるからと公的な情報を無視すれば、読み手が混乱してしまう可能性もあります。信頼できる情報源で定訳がすんなり見つからず、時間がかかって納期との戦いになることもありますが、事前に依頼者から特別な対応が指示されていなければ、定訳の確認をしながら訳すのが基本と思って翻訳の仕事をしています。

しかしこのところ、チェックを担当した際に、定訳を確認していないのかも? と思うような文章と出会うことが度々ありました。チェック案件を受けるときには、公的な情報を訳出時に確認しているものと思って工数を見積もっているため、いざチェックを始めてからオリジナリティーあふれる訳文であることがわかると焦ります。しかるべき情報源で裏取りをしていない(と思われる)場合は、名詞の確認と統一だけでかなり時間を取られ、訳文全体の品質を十分に保証するのが危ぶまれるときもあります。

こういう状況になった場合、その「オリジナル具合」や用語集の有無などによって、翻訳を担当した方に一度戻して用語をそろえてもらおうか、納期の延長や報酬の上乗せを交渉しようか、など色々な対応策を考えますが、すでに案件が走り始めてしまった後では気が引けて、納期に間に合わせるために泣く泣くそのまま仕事を進める、というときも正直あります。このようなことにならないように、打診を受けたときに「表現を統一すべき用語集や情報源の指定はあるか」などを確認するようにしていますが、そのとき「ある」と回答されたにもかかわらず、訳出時にその資料と統一していなかった、ということもありました。

「訳出時に1回、チェック時にもう1回情報源を確認する」のと「訳出時は自由に訳して、チェック時に公式な情報とそろえる」のとでは、どんなにチェック時に調査を綿密に行っても、仕上がりの品質にやはり差が出てくると思います。けれど、「翻訳するときに用語を統一して!」と言ってしまうのは簡単ですが、昨今の短い納期に間に合うように訳すためには、用語統一のためのリサーチ時間が限定されてしまうという事実もあります。訳出のタイミングだけに用語をそろえる負荷を集中させるのではなく、翻訳の仕事の上流から下流までそれぞれができる予防策を行うと、用語が適切にそろった翻訳に仕上げやすいのではないかと思います。例えば、

・翻訳発注者:用語集を支給する、表現の基準となる資料があれば共有する(特に固有名詞の多い原稿)
・翻訳仲介業者:用語集・資料の共有について発注者と相談する、翻訳者に用語の統一について事前に周知する
・翻訳担当者:用語統一の有無について自分から確認をする、信頼できる情報源での確認を大切にする、適切に申し送りをする
・チェック担当者:見積時に用語統一について仲介業者に確認する、信頼できる情報源で裏取りをする、裏取りできなければ適切に申し送りをする
などなど。

何より、自分が翻訳を担当するときにはきちんと情報の裏取りをしようと肝に銘じつつ、今日も人さまの訳文にかんなをかけています。

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ほんやくWebzineに寄稿するときに考えていたこと

先日、ほんやくWebzineの編集委員のみなさまに機会をいただき、「言葉のプロ・この2冊」と題したリレーエッセイに『翻訳の森を歩くための本』というタイトルで寄稿いたしました。学習中の方からプロの方まで、翻訳に興味を持っている幅広いWebzine読者に向けて、翻訳の実務や学習に役立つ本を紹介するという宿題をいただいて、本棚を眺めながら悩んだすえに、山岡洋一さんの『翻訳とは何か――職業としての翻訳』と江川泰一郎さんの『英文法解説』の2冊について執筆しました。

特に『翻訳とは何か』は翻訳者なら誰もが知る名著であり、内容が真摯である分、翻訳界の先輩方がそれぞれのご自分の思いやお考えを寄せている本だと思います。その本を私なぞが紹介していいものか、先輩方のお気持ちの邪魔になりはしないかという思いもよぎりましたが、やはり山岡さんのご本ははずせないと思いました。原文を理解していないと訳文が書けないのと同じで、書籍の内容を理解していないとその紹介文(書評)を書くことはできないことを実感しました。読み直しているうちに、山岡さんの本からは深い森を俯瞰するイメージ、江川さんの本からは1本1本の木々を間近でじっと調べるイメージがわき、「翻訳の森」というテーマが固まりました。

先輩方と名著を共有したいと思うと同時に、翻訳を仕事にしようと検討中の方、どこでどうやって学んだらいいのか迷っている方にもこの本の情報を届けたいという思いもありました。

『翻訳とは何か』は、私がこれまでに読んだ翻訳関連の本の中では、一番骨太で歯ごたえがあり、一本筋の通った1冊だと思います。『あなたも翻訳家になれる!」とうたうムック、翻訳業の楽しさ・魅力にねらいを定めた関連書は星の数ほどありますが、翻訳という仕事の厳しさ・難しさをこれほど真っ向から扱った本はあまりないと思います。甘さのない、現実を直視した1冊です。でも、山岡さんは「翻訳はつらい」とは一言も言いません。翻訳という仕事そのものも、その市場も、取り巻く環境も厳しいと話す一方で、翻訳がもつ絶対的な魅力をはっきりと書いています。

リレーエッセイでは詳しく書きませんでしたが、山岡さんは翻訳学習者と翻訳教育業界のゆがみも指摘しています。「家でできる、語学力が生かせるといった自然でない志望動機で翻訳を学ぼうとする人が多い。しかし、得意なはずの語学力が心もとない」、「翻訳学習者・志望者(予備軍)が約10万人いるのに対し、安定した品質で稼げる出版翻訳家は1000人~1万人にひとり。そんな割合でしか翻訳家を排出できないのなら、翻訳学校にはノウハウがないのでは?」といった記述もあり、ドキッとします。

私自身、翻訳を学ぼうか検討していたときは、諸事情から家でできる仕事を考えており、大学で専攻した語学力を基盤にしたいという思いもありました。翻訳学校で学び、その結果翻訳会社に登録する機会を得ましたので、そういった志望動機や翻訳学校を否定する気持ちはありません。ただ、「ちょっとしたコツですぐに翻訳で稼げるようになる」と言って翻訳業界を最近にぎわせている詐欺まがいの高額な翻訳講座*は決してお勧めしません。翻訳が「すぐに稼げるようになる」ような仕事でないことは、『翻訳とは何か』を読めばありありとわかります。
*このような翻訳講座については、⽇本翻訳連盟(JTF)も警告を出しています。

ほんやくWebzineの編集方針やこれまでに寄稿されている記事を拝読し、翻訳を学ぼうと考えている方々に「これを読んだ方がいい!」というお説教や警告じみたことを書くのはそぐわないなと思いましたので、詐欺翻訳講座とからめた話はこちらで書くことにしました。翻訳を仕事にするか、勉強するか迷っている方は山岡さんの本を読んでからもう一度考えても遅くはないと思います。そして、江川さんの『英文法解説』を読んで理解し、問題が解けるくらいの英語力は翻訳の勉強を始めるために必要だと思います。

『英文法解説』はAmazonなどでもふつうに購入できます。『翻訳とは何か』は電子版があるほか、紀伊国屋書店で紙版を取り寄せることができるそうです。
*『翻訳とは何か』に関し、絶版ではないことなどを教えていただきました。お詫びして訂正いたします。確認が不十分で申し訳ありませんでした。

『翻訳とは何か』には信頼できる翻訳業界の情報が詰まっていますので、翻訳に向かって足を踏み出すための最初の1冊としておすすめです。

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