歴史と本と翻訳と ~つばめ翻訳~

個人事業者つばめ翻訳。翻訳をめぐるあれこれを書いたり、海外記事を翻訳したりしています。

薔薇の名前

数か月かけてぽちぽちと読み進めていた「薔薇の名前」を、ようやく読み終わりました。

1351.jpg
(画像は版元よりお借りしました)

読み始めたきっかけは、今年のはじめに原著者のウンベルト・エーコの訃報に接したこと。
そこで「薔薇の名前」の存在を知り、
歴史好きの端くれとして
これを読まないわけにはいかないだろう、と思って
読み始めました。

正直いって読みやすい本ではありませんでした。
一文が長いことが多く、文体にもとても癖があるように私には感じられました。
でも、無理やり読んでいるうちに
なんだかその「癖」が味わい深いような気がしてきました。
原文はわからないけれど、エーコ自身も癖のある書き方をしていて、
訳者はそれを忠実に再現しようとしたのかな、とも思いました。
(訳者あとがきの雰囲気もちょっと独特だったので、
この辺りは定かではありません。
エーコの文体なのか、訳者の文体なのか)

なんとか読み切ることができたのは、
下訳に取り組んでいる書籍もけっこう歯ごたえのある内容で、
その本と格闘しているうちに
最近なえていた「読書筋」が少しばかり鍛えられたからかもしれません。
「わからない」ということを脳が楽しんでいるような、
「わからない」ことをそのまま受け止める練習ができていたというか。

と言いつつ、途中の宗教論争などのところはどうしても歯が立たず、
あらすじに迷わない程度に読み飛ばしてしまった箇所もありました。

一番おもしろかったのは、
やはり謎解きの現場となる修道院の図書館の描写です。
「古書の来歴」や、ツイッターで見かける羊皮紙の落書きなどを思い出しながら
読んでいました。

写本といえば、
今、丸善日本橋店で
西洋写本と書の世界」という展示が行われているそうです。
2016年7月5日(火) まで。
羊皮紙に鮮やかなインクで描かれた絵と文字、
本当に見たいけれど、今回は上京するのが難しそう…。
もし行かれた方がいらっしゃったら、ぜひ感想を聞かせてください!

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1913年のWebster's Dictionary

現在、翻訳会社からいただく仕事と並行して、
ノンフィクション書籍の下訳を担当しています。

その原文に19世紀に書かれた文章の引用があり、
あれこれ辞書を引いてもどうしてもわからない部分がありました。

そこで思い出したのが、
翻訳のレッスン」の中で深井先生が挙げられていた
Webster(ウェブスター)の1913年版の辞書。
引用箇所と時代が近いので、
もしかしたら当時の定義がヒントになるかもしれないと思いました。

著作権が消滅していて、ネットからダウンロードできるとのことだったので、
どれどれと検索してみると、ありました。
しかも、自分で先日導入した辞書ブラウザ、EBWinで使えるデータが!!
Webster's 1913 (EPWING)
データで検索できるだけでもありがたいと思っていたのですが、
自分のPCにダウンロードして辞書形式で見られるなんて感激。

すぐにダウンロードして引いてみました。
すると、原文で悩んでいた単語の定義も
確かに現在の英英辞書と違っていました。
残念ながら、以前の定義がわかっただけでは
原文の謎は解決できなかったのですが、
100年経つと辞書の定義は変わるものだということを
身をもって実感しました。

持っている辞書でも
古語表現や文語表現が載っている単語もあるので、
古い定義の要素も最新版に含まれているのだと思い込んでいて、
古い時代のものを訳すときに
原文と近い時代の辞書を引くことの有用性に今まで気づいていませんでした。
反省…。
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三谷さんのエッセイ ―「絵を描く」こと―

夫につられて見始めた「真田丸」がおもしろいので、
三谷幸喜さんのエッセイを図書館で探したら、
ちょうど「大河な日日」という1冊がありました。

1824.jpg
(画像は版元よりお借りしました)

軽妙な語り口で、気分転換にぴったり。
自主的に休養日にした午後に、一息に読みました。

三谷さんの描写は細かくてユーモラスで、
読んでいるとその人の動きが頭に浮かんできます。

例えば、こんな場面。

「特に目を引いたのが佃煮の蓋の瓶を思わせるミニミニシンバル。
これは二つをぶつけて音を出すのだが、
チーンとやった後に、必ず空気をかき回す仕草が入る。
そうやって音の余韻に微妙な強弱をつけているようだが、
それがお箸についた納豆の糸を払っているみたい。」
(P51-52)

空中に広がっていく音を拡散するように、
すばやく軽やかに腕を動かしている様子が浮かびました。

こんなにイメージしやすい文章を書くなんて、さすが三谷さん、
と思いながら読み進めていると、別のページにこんな一文がありました。

「小説家と違って、僕たち映像の人間は、
すべてを具体的に表現しなければならないので、
まずビジュアルで考えるのだ。」(P97)

脚本家が「ビジュアル」から入る仕事だと
今まで考えたことがなかったので、
新鮮な驚きを覚えました。


先日の翻訳シンポジウムでも、
「絵を描くのが大事」というお話がありました。

原文を読んで絵を思い浮かべること。
絵がうまくイメージできないときは理解がまだ足りない。

原文から思い浮かべたのと同じ絵を
訳文を読んだ読者が思い浮かべられるように訳文を書くこと。
それが過不足のない訳文。

言葉が好きで文字が好きで、この仕事をやっていますが、
翻訳者にも脚本家並みのビジュアル力が必要なのでした。
書かれている場面と、原著者の頭の中をイメージする力。
難しい…!

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