歴史と本と翻訳と ~つばめ翻訳~

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『カンタベリー物語』犬の名前で考える

前回の中世のペットの記事のおまけ2で書いた
『カンタベリー物語』に出てくる犬の名前について、少しまとめてみようと思います。

まず、名前の表記の変遷はこのようになっていました。

Colle→Coll→ハチ公→コル

Talbot→Talbot→熊公→タルボット

Gerland→Garland→?→ゲルランド


左から順に、中期英語原文→現代英語原文→西脇訳(1949年初版)→桝井訳(1995年初版)
(今回の翻訳の原典としたMEDIEVALISTS.NETに載っていたのは中期英語でした)

そもそもColleとGerlandの表記に自信がなく、
「先行訳はどうなっているか見てみよう」と思ったのが最初でした。

図書館でたまたま最初に手に取ったのが西脇訳。
カタカナの名前が出てくると思いきや、
「ハチ公」「熊公」というとっても和風な名前に変身していました。
三匹目のGerlandにいたっては、姿を消してしまっています…

まず思ったのは
「ハチ・クマは当時犬によくある名前だったのかな」ということ。
やはり忠犬ハチ公が頭をよぎりました。
ハチ公が生きていたのは1923年~35年、
37年には小学校の教科書にも載ったそうなので、
西脇順三郎が訳していたときに
「犬といえばハチ」という図式があったのかもしれません。

犬の名前としては「ポチ」のほうが一般的なような気もします。
ポチという名は明治時代にはすでに広まっていたとのこと。
1901年に幼年唱歌に収録された「花咲爺」の童謡にも
「ポチ」が登場するそうです。
(しかし『花咲かじいさん』の犬が「シロ」になっている本も多いとか

「ハチ公熊公」は意外にも辞書にも載っていて、
大辞泉によると「無教養だが善意の庶民を指す称」とあります。
「熊さん八つぁん」は落語などに出てくる庶民を代表する名前だそうです。
名前決定には落語もヒントになったのでしょうか。

ちなみに物語本文を読んでみると、
このCol、Talbòt、Gernònの三匹の犬は
狐にさらわれた雄鶏を追いかける場面で出てきます。
泥棒狐を追いかける、という意味では、
”善意の庶民”のイメージに近いかも?

しかしこの三匹、
大事な雄鶏を取られて大騒ぎする人間に巻き込まれて
思わず一緒に狐を追いかけているという感じです。
しのびこんできた狐をいち早く察知!という忠犬ぶりもありません。
人間に飼われてその辺でうとうとしていたのでしょうか。
ちょっとぼんやりしている感じが
「ハチ公」「熊公」という名前の響きに表れているような気もします。

チョーサーやカンタベリー物語の先行研究はたくさんあるので、
犬の名前がどうなっているか、比べてみてもおもしろそうです。

ささやかな犬の登場人物から
中期英語と現代英語、訳者によっての名前の選択まで
色々と考えが広がりました


参考文献
カンタベリ物語(下) G.チョーサー作 西脇順三郎訳 ちくま文庫 1987年
完訳カンタベリー物語(下) チョーサー作 桝井迪夫訳 岩波書店 1995年   
The Canterbury Tales(中期英語) プロジェクト・グーテンベルク 
The Canterbury Tales and Other Poems(現代英語) プロジェクト・グーテンベルク
デジタル大辞泉 小学館
西脇順三郎 Wikipedia
忠犬ハチ公 Wikipedia
ポチ Wikipedia

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