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つばめ翻訳のブログ

在宅フリーランスで翻訳業をしています。翻訳の仕事、勉強、イベント、読書と言葉について書いています。

ほんやくWebzineに寄稿するときに考えていたこと

先日、ほんやくWebzineの編集委員のみなさまに機会をいただき、「言葉のプロ・この2冊」と題したリレーエッセイに『翻訳の森を歩くための本』というタイトルで寄稿いたしました。学習中の方からプロの方まで、翻訳に興味を持っている幅広いWebzine読者に向けて、翻訳の実務や学習に役立つ本を紹介するという宿題をいただいて、本棚を眺めながら悩んだすえに、山岡洋一さんの『翻訳とは何か――職業としての翻訳』と江川泰一郎さんの『英文法解説』の2冊について執筆しました。

特に『翻訳とは何か』は翻訳者なら誰もが知る名著であり、内容が真摯である分、翻訳界の先輩方がそれぞれのご自分の思いやお考えを寄せている本だと思います。その本を私なぞが紹介していいものか、先輩方のお気持ちの邪魔になりはしないかという思いもよぎりましたが、やはり山岡さんのご本ははずせないと思いました。原文を理解していないと訳文が書けないのと同じで、書籍の内容を理解していないとその紹介文(書評)を書くことはできないことを実感しました。読み直しているうちに、山岡さんの本からは深い森を俯瞰するイメージ、江川さんの本からは1本1本の木々を間近でじっと調べるイメージがわき、「翻訳の森」というテーマが固まりました。

先輩方と名著を共有したいと思うと同時に、翻訳を仕事にしようと検討中の方、どこでどうやって学んだらいいのか迷っている方にもこの本の情報を届けたいという思いもありました。

『翻訳とは何か』は、私がこれまでに読んだ翻訳関連の本の中では、一番骨太で歯ごたえがあり、一本筋の通った1冊だと思います。『あなたも翻訳家になれる!」とうたうムック、翻訳業の楽しさ・魅力にねらいを定めた関連書は星の数ほどありますが、翻訳という仕事の厳しさ・難しさをこれほど真っ向から扱った本はあまりないと思います。甘さのない、現実を直視した1冊です。でも、山岡さんは「翻訳はつらい」とは一言も言いません。翻訳という仕事そのものも、その市場も、取り巻く環境も厳しいと話す一方で、翻訳がもつ絶対的な魅力をはっきりと書いています。

リレーエッセイでは詳しく書きませんでしたが、山岡さんは翻訳学習者と翻訳教育業界のゆがみも指摘しています。「家でできる、語学力が生かせるといった自然でない志望動機で翻訳を学ぼうとする人が多い。しかし、得意なはずの語学力が心もとない」、「翻訳学習者・志望者(予備軍)が約10万人いるのに対し、安定した品質で稼げる出版翻訳家は1000人~1万人にひとり。そんな割合でしか翻訳家を排出できないのなら、翻訳学校にはノウハウがないのでは?」といった記述もあり、ドキッとします。

私自身、翻訳を学ぼうか検討していたときは、諸事情から家でできる仕事を考えており、大学で専攻した語学力を基盤にしたいという思いもありました。翻訳学校で学び、その結果翻訳会社に登録する機会を得ましたので、そういった志望動機や翻訳学校を否定する気持ちはありません。ただ、「ちょっとしたコツですぐに翻訳で稼げるようになる」と言って翻訳業界を最近にぎわせている詐欺まがいの高額な翻訳講座*は決してお勧めしません。翻訳が「すぐに稼げるようになる」ような仕事でないことは、『翻訳とは何か』を読めばありありとわかります。
*このような翻訳講座については、⽇本翻訳連盟(JTF)も警告を出しています。

ほんやくWebzineの編集方針やこれまでに寄稿されている記事を拝読し、翻訳を学ぼうと考えている方々に「これを読んだ方がいい!」というお説教や警告じみたことを書くのはそぐわないなと思いましたので、詐欺翻訳講座とからめた話はこちらで書くことにしました。翻訳を仕事にするか、勉強するか迷っている方は山岡さんの本を読んでからもう一度考えても遅くはないと思います。そして、江川さんの『英文法解説』を読んで理解し、問題が解けるくらいの英語力は翻訳の勉強を始めるために必要だと思います。

『英文法解説』はAmazonなどでもふつうに購入できます。『翻訳とは何か』は電子版があるほか、紀伊国屋書店で紙版を取り寄せることができるそうです。
*『翻訳とは何か』に関し、絶版ではないことなどを教えていただきました。お詫びして訂正いたします。確認が不十分で申し訳ありませんでした。

『翻訳とは何か』には信頼できる翻訳業界の情報が詰まっていますので、翻訳に向かって足を踏み出すための最初の1冊としておすすめです。
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