歴史と本と翻訳と ~つばめ翻訳~

個人事業者つばめ翻訳。翻訳をめぐるあれこれを書いたり、海外記事を翻訳したりしています。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

なぜわたしたちは笑うのか?

ブログ翻訳009
なんだか哲学的なタイトルですが、そうではなく、
写真史と笑顔についての論文を紹介している文章です。

新しくアメリカのキャロル・ボーデンスタイナーさんに許可をいただいて訳しました


なぜわたしたちは笑うのか?
2013年8月5日 キャロル・ボーデンスタイナー

 写真を撮るために一列になり、誰かの「ハイ、チーズ!」の声でみんなが笑顔になる。反射的にこうしているだろう。だが、かつては必ずしもそうではなかった。1900年以前、笑顔の写真は極めてまれだったのだ。

GW-Lydia-Haylock-c1890W-221x300.jpg
わたしの曾祖父母(1890年頃)

 執筆中の第一次世界大戦時代の小説のために20世紀初頭の写真を調べていたとき、わたしはある興味深い論文に行き当たった。クリスティーナ・コッチェミドヴァ博士による『 "ハイ、チーズ" の理由――スナップ写真の笑顔の創造――』という論文だ(論文の全文を読むにはこちらをクリック)。
(訳注:リンク先は英文です。また、2ページ目以降を読むには会員登録と費用が必要です)

 19世紀の写真は、なぜしかめ面ばかりなのか。コッチェミドヴァ博士の挙げた理由は――

歯が悪かった。
歯が抜けたり虫歯になったりしている口は誰も見せたがらなかった。ハリウッドスターが真珠のような真っ白な歯を率先して見せるようになったのは、歯科医療が発達してからのことだった。

口元を引き締めるのがエチケットであり美しいと考えられていた。
口は小さいほうが美しいとされ、許されるのはモナ・リザのような控えめな微笑がせいぜいだった。カメラマンはモデルに「プルーン」と言わせて、口元がきれいに見えるようにした。

歯を見せて笑うのは下層階級がすることであり、農民や酔っ払い、子どもや知的障害者の特徴と考えられていた。
19世紀の米国で笑顔が挿絵に描かれたのはハックルベリー・フィンだけだが、彼はアイルランド系の農民の子どもだ。

露光時間が長かった。
モデルは長時間じっとしていなければならず、その間ずっと笑顔を保ち続けるのは不可能ではないにしても難しかった。

 世の中の笑顔の写真に対する考え方が本格的に変わり始めたのは、コダック社が1900年にブローニーカメラを1ドルで売り出し、大衆がカメラを手にするようになってからのことだ。だが、写真を撮られるのは楽しいことだと人々を納得させるには、長期にわたるマーケティング活動がさらに必要だった。コダック社は全国誌に大々的に広告を打ち、休暇や旅行やピクニックの思い出を手軽に楽しく残せると売り込んだ。あらゆる場所にコッダクガールが登場し、夢中になって写真を撮る姿を見せた。

20121119085543-f9db07a5-207x300.jpg
コダックガール

 コダック社は撮影の楽しさに加え、「モデル」役も楽しめるものにしようと取り組んだ。プロのカメラマンたちにどうやって人々を惹きつけるかを教え、新しい用語を使って「撮影室」を「スタジオ」と呼ばせたりした。慣れ親しんだ環境でリラックスできるからとモデルの自宅での撮影を勧め、人々の気分が浮き立っているはずの休暇中が撮影のねらいめだとアドバイスした。

 コダック社はスポンサーとなってフォトコンテストを開催し、入賞した写真家に賞状と賞金を贈るとした。入賞作品は同社の広告に採用された。つまり、"よい写真"の基準はまさしく広告の理想像によって決められたのだ。数十年間にわたり、コダック社は常に受賞作品に笑顔の写真を選んでいる。

 コッチェミドヴァ博士は、1940年代までには「笑顔は大衆の写真文化に欠かせないものとなった」としている。だがこれは少なくとも米国ではという話だ。すべての文化でカメラに向かって笑うのがよいとされているわけではなく、中には写真を撮ること自体がよくないとされる文化もある。

 だから、「ハイ、チーズ!」と言われたら、そうしない時代もあったことを思い出そう。笑わないことを選んでもいい。歴史をひもとけば笑顔にならない理由があり、「チーズ」ではなく「プルーン」と言う理由だってあるのだから。


出典
筆者 Carol Bodensteiner
Carol Bodensteiner.com "Why do we smile?"
http://carolbodensteiner.com/why-do-we-smile/
2013/11/15アクセス
Copyright Carol Bodensteiner All Rights Reserved.


訳したきっかけ
・高校生のときにサンフランシスコの美術館に行き、
居並ぶ肖像画がどれもいかめしい顔をしているので
「なんでみんな笑っていないのかなあ」と思った記憶があります。

その後、米国では「歯を見せる笑顔が信頼の証」だと聞き、
運転免許証でさえも笑顔で写真を撮ると知って驚きました。

そのアメリカの人が「昔から笑顔で写真を撮っていたわけではない」と書いているのが
新鮮でおもしろく感じられ、訳すことにしました。

訳してみて
・色々なテーマをさらに調べたいと思う記事でした。
写真技術や歯科医療の歴史、コダックの社史、アメリカの保険制度、
虫歯に対する日米の意識の違い、文化圏による笑顔の意味の違いなどなど。

・コダック主催のフォトコンテストの歴史や概要については
こちらのサイトが詳しかったです→PhotoSeed
このページでは1905~1913年の受賞作品がいくつか見られますが、
特に笑顔の写真はありませんでした。
コダックが笑顔に注力したのはもう少し後だったのでしょうか。

・米国では歯の美しさが重視され、治療費が高いとよく聞きますが、
歯の医療保険でカバーされるのは主に予防治療で
虫歯の治療は基本的に自費になるため、
虫歯をこじらせないように子どものころから予防意識が高いのだそうです。

・会社や学校を通じて歯の保険に加入することが多いそうですが、
景気が悪い昨今は失業で保険に入れなくなり、
虫歯になっても治療できない人も増えているのだとか。
オバマ大統領による医療保険改革によって
このような人たちも適切な医療を受けられるようになるとされていますが、
今後はどうなるでしょうか。

反省点・課題
・本文中に「ハリウッドスターが歯を見せるようになったのは歯科医療が発達してから」とありましたが、
これが具体的にいつごろからなのかがはっきりわかりませんでした。

ちなみに、ハリウッドが映画の地になったのは1910年代ごろ、
民間の歯科医療保険が使われるようになったのは1970年代ごろからだそうです。

・ハックルベリー・フィンがアイルランド系だという確認ができませんでした。
グーテンベルグでハックとトムソーヤの冒険の原文を検索しましたが、
IrelandやIrishという単語はヒットしませんでした。
違う表現で出てくるのかなあ。要確認です。


『読んだよ』代わりにっといただけるとうれしいです。
にほんブログ村 英語ブログ 英語 通訳・翻訳へ
にほんブログ村

にほんブログ村 英語ブログ 英語学習者へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。